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種豚と遺伝

  • 育種選抜

  • この30年で米国養豚での育種改良で変化したこと

  • 育種改良の技術

  • ​豚の栄養使用の遺伝の影響

  • 育種ピラミッド

  • ​フランス・デンマークの遺伝・種豚会社の選抜戦略

  • 雄豚育種での遺伝的改良量と選抜強度

  • 遺伝と栄養

  • ​エピソード、子宮内成長が制限された子豚

  • 平均飼料摂取量の遺伝率

  • ​カナダ種豚会社の研究:性別分離、遺伝情報、表現型​

  • スペイン養豚の種豚戦略

  • ​米国にとっての日本豚肉市場

  • ​トピッグス社の種豚ライン5つの特徴

 

 なお品種については、米国オクラホマ大学アニマルサイエンス学科サイトの「breeds of livestock」がよくできています。豚は70品種が掲載されています。 afs.okstate.edu/breeds/swine

​育種選抜

 

 育種選抜は、養豚生産の技術のなかでも最も大切なものです。米国ブロイラー産業では、育種改良が進んでおり、生産の進歩と成功の80%が育種によるといわれています。そして残りの20%が鶏舎・管理・設備・飼料・ワクチンといわれています。養豚もそのような方向に進んでいると思われます。生産者は長期的利益が最大になる育種選抜プログラムを選ぶことが重要です。

 下に図として10年間のデータを保有している欧州農場での分娩時生存子豚数、離乳子豚数、年間母豚当り離乳子豚数(PSY)と農場サイズの増加を示しました(Koketsu et al., 2021, PHM)。生産農場での管理改善もあるのですが、育種の力が大きいいと思われます。

10年間の育種効果

この30年で米国養豚での育種改良で変化したこと(Mabry, 2016, IPVS)

  • 分娩時生存子豚数頭数が10頭から14頭以上に増えてきた

  • 出荷肉豚の背脂肪厚がP2で25ミリから10ミリ以下に減少してきた

  • リーン肉の割合が45%から57%に増えてきている

  • 出荷豚の成長速度が100キロ(220パウンド)到達時が7か月齢から129キロ(285パウンド)到達時6か月と短縮されてきている

  • 出荷までの飼料要求率が3.5から2.5に改良されてきている

  • よいこともあるのですが、問題点もあります。分娩される子豚数増えているが、子宮の収容力が改良されていないので、生まれる子豚の体重が軽くなり、そういう子豚の離乳後の生存率が低下しています。また母豚の死亡率も増えてきています。

  • 注意)米国での育種改良は、日本にはフルには起こっていません。なぜなら、日本では、食肉会社が出荷肉豚の背脂肪厚の厚いものを好む傾向があるので、脂肪の多い豚が生産されているからです。

米国や欧州で使用されている育種改良の技術(Mabry, 2016, IPVS)

  • 雌豚の交雑種により、繁殖成績がよいものが使用されている。例がランドレース種×大ヨーク種のF1交雑雌豚です。雑種強勢を利用しつつ、繁殖能力の高い雌種豚ができます。

  • 最適な遺伝システム構造:生産農場が、適切な頭数の原原種豚 (GGP)、原種豚 (GP)、肉豚の親になる種豚(PS)を保有できるようになっています。在籍雌種豚の約10%がGPとGGPの役割を持ちます。これらの母系ラインが交雑PS雌豚を作り、種雄豚にはデュロック種、ピエトレン種、または多元交配雄豚種 (Composite terminal lines)が使用されます。これによって生産者は雌種豚と肉豚で雑種強勢が利用できます。

  • 最良線型不偏予測(BLUP)の使用した選抜育種システムの利用。BLUPは育種価を推定する最適な方法です。

  • 遺伝マーカーを利用して効率的な選抜、マーカーアシスト選抜が、育種会社で行われています。

  • GGPレベルで交配選択ソフトを利用して、育種会社は内交配を避けつつ、純系から最もよい交配ペアを選択できます。

  • ゲノム情報の利用、育種会社はGGPレベルの種豚のゲノム情報を利用して、育種価の推定の精度を上げます。

豚の栄養使用への遺伝の影響

 米国カンサス州立大学(KSU)のウエブサイトに、「計算ツールCalculator and Tools」に、肉豚用の必要リジン%の計算式があります。リジンはただ添加するのでなく、性別と体重別の飼料のカロリーとの比率で示してありました。そしてKSUの推薦比率とともにカナダの種豚メーカーGenesus社の肥育豚性ミックスの比率も掲載されていました。以下の図のように並べて比較してみました。

 KSU推薦のものは、米国大手の種豚メーカーPICの肥育豚でないかと予想されます。KSU推薦のものは、90キロを過ぎると、それほど比率が低下しなくなるのですが、Genesus社の肥育豚は、30キロから線形に低下していきます。Genesus社の説明では食欲が旺盛で飼料摂取量が多いせいということです。

 豚の栄養使用の影響は、遺伝・種豚メーカーでずいぶん違うのが分かります

種豚ラインとリジン量

米国の種豚会社の育種ピラミッドとデータ収集

 米国ポール・ルーエン獣医師から聞いたものを紹介します。米国大手PIC社が実施している種豚ピラミッドと多数の生産農場からのデータ収集そしてその遺伝改良への活用です。

 ピラミッドの4つの階層からなり、頂点の中核農場での雄系と雌系の原原種豚(Great grand-parents)を飼育し2階層目に配布、それを繁殖して2階層目の原種豚増殖農場で原種豚(Grand-parents)を増やして3層目に配布し、3層目の繁殖生産農場の母豚と雄豚で肥育素豚を生産している。さらに、生産された肥育素豚は、4層目の生産肥育農場で肥育されています。血縁情報に加えて、生産繁殖農場での繁殖成績データは収集され、生産肥育農場での肥育成績さらに出荷された屠体データも収集されて、BLUP使用した原原種豚の推定育種価の計算に使用され、それをもとに選抜され改良されていくというものです(下図)。

 図にははっきりとは示していないですが、どの種豚会社とも、体毛や血液からの遺伝子マーカーを利用したマーカーアシスト育種もされていると思われます。

 なお大農場では生産繁殖農場が、原種豚や原原種豚の雌豚ラインを持ち、種豚会社から精液の供給を受け、種豚を自家育成できるようになっています。イン・ハウス更新用若雌豚増殖 (in-house replacement gilt multiplication)とよばれています。

育種ピラミッド

フランスの国際種豚会社の育種選抜の戦略

「Pig Progress 2月24日号」www.pigprogress.netによれば、中国へ種豚を輸出して種豚ビジネスを展開しているのは6社、Axiom (仏), PIC (英), Choice Genetics (仏), DanBred (デンマーク), Nucléus (仏), Hendrix Genetics (オランダ)です。6社とも欧州に本社のある会社です。

フランスの種豚育種会社と中国

Axiom社の種豚選抜の戦略

  上記国際種豚メーカーの一つ、Axiom社 (仏)のウエブ情報が詳しかったのでまとめました (www.axiom-genetics.com)。一番丁寧に遺伝・種豚について説明しています。

  Axiom社は豚の遺伝・種豚会社で、30年間の種豚の選抜育種の経験をもっています。選抜育種と研究開発、遺伝に関する革新的で高い質の研究の普及が、私達のチームを動かしています。私達の共通目的は、養豚生産における最良の遺伝潜在能力を生産者に提供することです。それは期待される技術的かつ経済的な成績と管理のしやすさの両方です。

Axiom社の原原種豚の飼養頭数と選抜

 欧州ではフランスとスペインで7500頭、カナダで1200頭、中国で5000頭、韓国で500頭を保有しています。中国に多く投資しているようです。

 雄系の種豚は6ライン: デュロック1 (Duroc Axiom)、デュロック50%交雑 (Label 48)、ピエトルエン3 (Piétrain NN Axiom, Axiom, Saphir)です。デュロックの選抜基準は、屠体歩留まり成績 (Carcass and yield) 55%、肉質 (Meat quality) 12%、飼料要求率 (Feed conversion rate) 29%、肥育成績 (Growth and index) 25%です。ちなみにピエトルエン NN Axiomの選抜基準は、屠体歩留まり成績 (Carcass and yield) 40%、飼料要求率 (Feed conversion rate) 30%、肥育成績 (Growth and index) 30%です。ピエトルエンには肉質の項目がありません。

 雌系の種豚は6ライン:大ヨーク (Axiom French Large-White)、ランドレース (Axiom French Landrace)、F1交雑 (Adénia)、中国系3 (Youna, Youli, Tai Zumu)です。大ヨークの選抜基準は、多産性 (Prolificacy) 42%、子豚の質 (Litter quality) 19%、肥育成績 (Growth and index) 31%です。ランドレースでは子豚の質 (Litter quality) 15%、生産性 (Productivity) 55%、肥育性(Growth and index) 28%です。ランドレースには多産性の項目はありません。

選抜の戦略

 フランスに7000頭の原原種豚を、20か所(雄系7サイト、雌系13サイト)で選抜しています。選抜には4つの軸をもっています。その4つは、母豚としての質 (Maternal quality)、飼料効率 (Food efficiency)、肉質 (Meat quality)、免疫と強健性 (Immunity and strength)です。母豚としての質とは、体重があり、斉一性があり、費用対効果のある子豚を多産できることです。飼料効率とは飼料に関わらず、採算性があることです。肉質はどのようなマーケットでもニーズに合わせられることです。免疫と強健性とは、どのような条件でも高い能力を発揮できることです。

​ 右の写真はAxiom社のSPF繁殖農場です。空気フィルター完備です。

 

種豚育種選抜の戦略

育種の3つの技術

  • BLUPによる育種価の評価:世界中の農場サイトを繋ぎ毎年50000頭を評価しています。

  • ゲノム科学 (Genomics)の応用、BLUPの評価を補完し、増進させるために使用しています。この方法で動物の価値が、調査していない基準も精密に評価できるようになりました。

  • 最適貢献度選抜 (Optimal Contribution Selection: OCS):Axiom社で開発、遺伝的内交配の進化を予想しつつ、遺伝改良を進める遺伝選抜ツール。

精液

 1700頭の雄豚を保有、フランスで200万ドースが使されていて、フランスの肥育豚の半分はAxiom社の精液を使用して生産されています。

デンマークのDanBred社 (https://danbred.com)

 

会社使命は、高品質かつ投資利益率の高い、顧客のニーズにあう他よりもよい遺伝的ソリューションを顧客に提供することです。

展望は、豚の遺伝・種豚の供給と関連する顧客を中心に考えたソリューションを提供する世界のトップ3の会社であることです。

DanBred社の選抜基準

ランドレースとヨークシャでは飼料要求率40%、30キロから出荷までの平均増体量25%、リーン肉割合17%、分娩後5日までの生存子豚数(LP5)9%、生後から30キロまでの平均増体量3%、歩留まり2%、骨格1%、初期増体と母体効果1%です。

 

デュロックでは、飼料要求率45%、30キロから出荷までの平均増体量22%、リーン肉割合11%、骨格7%、肥沃性と父体効果6%、生後から30キロまでの平均増体量5%、歩留まり4%です。

DanBred社の内部告発制度

同社には「倫理的になろう:Got Ethics」という内部告発制度があります。それはすべての従業員、および代表者や関連会社、代理店そして販売配給店の人達が告発できます。以下の法律や行動規範への違反について告発できるものです。

  • お金ロンダリング

  • 賄賂など腐敗

  • 違法な海外取引

  • 報復

  • インサイド取引

  • 正常競争法違反

  • ITセキュリティ

  • データセキュリティ

  • 健康、安全と環境への違反

  • 性ハラスメントや性差別

 

Webや電話で告発するとレポートのキーとパスワードが送られてきて、他の人は見れないようになっています。インテグリティ委員会が次の行動を決めます。
 

雄豚育種での遺伝的改良量と選抜強度

 養豚産業界では、経済的に重要な成績は期待される方向に進んでいます。経済的に重要な成績は、肥育成績では1日当り増体量(ADG)、体重105キロ到達日齢と背脂肪厚です。繁殖成績としては、初交配日齢、分娩時総産子数と分娩時生存産子数です。

 その遺伝的改良量は4つの因子で決まります。それは1)選抜基準の精度を上げる(r: 遺伝率評価の方法とモデル)、2)遺伝的バラツキを多くする(σa:選抜する母集団に依存)、3)世代間隔を短縮する(t:淘汰率と更新率を上げる)、4)選抜強度を上げる(i:母集団の平均と選択したペアの平均の差を増やす)。

式で表すと、

育種での遺伝的改良量=(選抜基準の精度×遺伝的バラツキ×選抜強度)÷世代間隔=(r × σa × i )÷t

 

 選抜強度は、選抜インデックス値をベースに次世代のために、どれだけ優秀な種豚を使うかという程度と説明されます。雄豚では、インデックス値の上位5-10%の雄豚を選ぶべきと言われています。そうすることで、高い遺伝能力をもつ子孫を生産でき、それを続けることでさらに高い遺伝能力もつ子孫を作ることができます。

参考文献Genesus社の技術レポート4月21日号

Mahboob et al. Animals 11 (2021) 1321, https://doi.org/10.3390/ani11051321.

Robinson and Buhr. Theriogenology 63 (2005) 668–678, doi: 10.1016/j.theriogenology. 2004.09.040.

​写真はGensus社の豚舎

育種の中核農場

遺伝と栄養、脂肪蓄積は遺伝で決まる

 肥育豚のリーン肉(タンパク質)増大は生体重約18キロからはじまり、ある水平になる時点(プラトー)まで増え、その後減少します。そのプラトーになる時点は、遺伝能力で決まります。そしてリーン肉(タンパク質)増大と脂肪蓄積は直線的に起こります。

 そして飼料摂取量当りのリーン肉(タンパク質)増大の変化は、傾き(スロープ)で表されます。飼料摂取量が増えるにしたがって、リーン肉(タンパク質)はある水平になる点(プラトー)まで増えます。たんぱく質増大が最大になる飼料摂取量になった点でプラトーになります。そしてタンパク質増大が最大になる飼料摂取量以上のエネルギーは、脂肪として蓄積されます。肥育の高い遺伝能力をもつように選抜されている種豚からの肥育豚は、高い飼料とエネルギー摂取量に対応してタンパク質を増大させられます。

育種と成長カーブ
育種の効果でタンパク質量が変わる

エピソード:子宮内成長が制限された子豚

 IUGR子豚といいます。この20年、主要養豚国の農場では多産系母豚が育種の成果として、導入されてきました。しかし、排卵数と子宮内胎子生存数が多くなったが、子宮の容積は大きくなっていません。そのことから、子宮内での成長が制限された子豚が分娩されるようになってきました。これをIUGR(Intra-uterine growth retardation)子豚といいます。このような子豚は生後5日以内に死にやすいという問題が指摘されています。

 このIUGR子豚の特徴は、頭部が顔全体で相対的に大きいこと、体重が軽い(1キロ以下)、直腸の体温が低く、初乳がうまく飲めないことです。そのための育種対策としては、IUGRの少ない母豚の選抜、分娩時子豚体重のバラツキが少なく生体重の大きいものの選抜、子宮の大きさの大きい母豚の選抜、乳頭の多いもの母豚の選抜(伝統的には14乳頭以上であったが、今は18-20乳頭の母豚になってきている)です。

 管理面としては、追加ヒーターの利用で分娩環境の改善、介助分娩と初乳摂取の手助け、分割授乳と里子、人工哺乳器の利用があります。さらに福祉上から、生き残る見込みのないと思われるIUGR子豚には、安楽死も考慮すべきと思われます。写真は以下の研究論文を参考にしました。福祉サイトも参考にしてください。

J. Hales, V. A. Moustsen, M. B. F. Nielsen, C. F. Hansen, Individual physical characteristics of neonatal piglets affect preweaning survival of piglets born in a noncrated system, Journal of Animal Science, Volume 91, Issue 10, October 2013, Pages 4991–5003

子宮内での成長遅延
子宮内で正常発育豚

研究報告:平均飼料摂取量の遺伝率

 遺伝率(heritability:h2)とは、遺伝の違いが、個々の特定の形質の違いをどれくらいの割合で説明できるかを示す尺度で、0から1.0(0から100%)です。量的形質において、個々のバラツキ(分散といいます)を遺伝と環境に分割して、遺伝によるバラツキを分子として、すべてのバラツキで割った割合を指します。

 さてこの報告ではフィンランドのヨークシャーとランドレースとそのF1の3125頭を使い、肥育成績と平均飼料摂取量の遺伝率を推定しています。豚は32.7 kg (89日齢) から117kgまで95日間飼養しています。

 遺伝率は、飼料要求率は0.28,日当り平均増体量は0.25で、平均飼料摂取量は5期間で0.17-0.32でした。飼料要求率と比べて、飼料摂取量の遺伝率は中くらいに高いです。

参考文献:Alper T KavlakPekka Uimari. J Anim Breed Genet. 2019 Nov;136(6): 484-494.doi: 10.1111/jbg.12408. Epub 2019 Jun 7. Estimation of heritability of feeding behaviour traits and their correlation with production traits in Finnish Yorkshire pigs

カナダ種豚会社の育種技術

カナダ本社のFast Genetics社はウエブサイトで彼らの育種技術と研究を紹介しています。htttps://fastgenetics.com/ 図は同社HPから。

精子の性別分離技術Sex sorted sperm

 精子の選別プロセスは非常に正確で、十分に証明されています。 精子を分離する技術的原理は、精子細胞間の DNA の違いに基づいています。 X を持つ精子細胞には、Y を持つ精子細胞よりもわずかに多くの DNA が含まれています。 精子細胞が選別機を通過する際、独自のソフトウェアが X を持つ精子細胞と Yを持つ精子細胞の違いを検出します。 精子細胞は、DNA の違いに基づいて分離され、最大 99% の精度で性別選別された精子が得られます。

  顧客は、中核農場レベルでの精子選別機の導入によるメリットを享受できます。 具体的には、性選別された精子と中核農場レベルでの低用量の精液技術により、性比を変えて、すべての製品ラインで遺伝子の改良を加速させることができます。 全ての増殖農場でも性選別精子を導入することで、製品供給の増加が可能になります。

 将来、Fast Genetics は、性選別された精子を顧客と生産農場レベルで実装する予定です。生産農場レベルでの導入により、Fast Genetics の顧客は、食肉会社のパートナーシップを含む多くの経済的および管理的理由に基づいて、性別の比率を変化させることができます。

精子の性別分離

ゲノム・遺伝情報Genomics

 ジェノタイピング (遺伝子型判定) プロセスは、細胞を含む生物学的材料のサンプルから始まります。DNAは細胞核から抽出され、遺伝子型が特定されます。ジェノタイピングのプロセスは、動物ゲノムの違いを識別します。同じ種内では、ゲノムの核酸配列決定はほとんど同じです。ただし、2 頭以上の豚間で配列が 1 塩基対だけ異なる場合、それは一塩基多型 (SNP) と呼ばれます。

 SNP は、豚の観察可能な特性の違いの原因となる可能性があります (例: 豚ストレス症候群に対する耐性)。ブタでは、最も経済的に重要な形質がゲノムのいくつかの領域 (いくつかの SNP) によって制御されています。

 Fast Genetics は、独自のゲノム評価を使用して、豚 1 頭あたり数万の SNP を評価します。 ゲノム解析の主な目的は、ゲノム EBV の使用です。 ゲノムEBVは、SNP情報を使用して豚がどのように成長するかを推定することにより、若い豚の正確な選抜育種を可能にします。実際には、ゲノム評価にゲノム EBV を使用すると、遺伝的改良が大幅に高速化されより良い豚が生み出されます。

ゲノム情報

表現型Phenotype

 表現型とは、遺伝学用語で、ブタの遺伝子型と環境との相互作用から生じるブタの観察可能な特徴や形質のセットです。遺伝子マーカーと関係公式は、正確な表現型の記録なければほとんど価値がありません。適切なタイミングで適切な場所で測定することが重要です。たとえば、表現型は、食肉工場、生産農場、および中核農場で測定・記録されています。 Fast Genetics社 のすべての測定記録は、総産子数、子豚の体重、飼料要求率、1 日あたりの平均増体などの重要な指標を遺伝的に改良するのに役立ちます。

その他の研究

 Fast Genetics社 は、低用量の深部子宮授精用の新しいカテーテルなどの生殖技術を開発しています。 低用量で深い子宮授精技術により、性選別された精子の使用が可能になります。

 また遺伝子、栄養、管理、枝肉、肉の品質に関する研究を定期的に行っています。種豚の試験、栄養試験、および管理の試験は、専用の研究施設で実施されます。種豚の試験は、製品の改善と新しい製品をもたらします。 栄養と管理の試験は、製品ライン全体のパフォーマンスの向上につながります。定期的に中核農場選択の同腹豚を屠殺し、完全なカットアウトと品質テストを行います。枝肉と肉の品質調査から得られた情報は、選抜基準に含まれ、出荷先の食肉工場のパフォーマンスを向上させます。

スペイン養豚の種豚戦略

  スペインのVall Companys Group(ヴァル社)の養豚部門は欧州随一の生産力をもっています。3つのAIセンターと1577養豚農場で、250000頭の母豚、5つの食肉工場、9つの飼料工場(鶏用含む)を持ち、500万頭以上の豚出荷をしています。出典:https://vallcompanys.es/en/

  生産している豚は4タイプ:白豚、デユロック豚、穀物飼料で飼育のイベリコ豚、森放牧ドングリ肥育のイベリコ豚です。残念ながら比率は非発表です。一番多いのは白豚です。

  白豚は、最も人気があり、広く消費されている豚です。ヴァル社では、ピエトレイン、ラージホワイト、ランドレースの品種間で交雑しています。脂肪の少ない高品質の豚肉を生産しています。

設備の整った農場で飼育され、その特有の特性と成長能力の栄養要求量を満たす飼料が与えられます。短くて太い脚を持つ大型白豚は、皮下脂肪層をあまり蓄積せず、脂肪が筋肉に入りこまない、脂肪の少ないマイルドな味わいの肉が得られます。

  デュロック豚は、その風味と食感により、スペイン料理で人気が高まっている注目の品種です。日本のレストランでも使用されています。デュロック豚はオールド・デュロック種とレッドジャージー種を交配して生まれたもので、その遺伝的特徴によりイベリコ豚との交配が認められている唯一の品種です。ヴァル社では 100% および 50% デュロック種を生産しており、後者はダンブレッドのデュロック種と白豚の交配です。成長成績と肉質を最適化するための飼料を与えられています。デュロック種は肉の水浸透力が非常に高く(訳者注:保水力と思われる)、非常にジューシーで風味豊かな肉が得られます。

穀物飼料で飼育のイベリコ豚

  イベリコ豚は非常に特別な品種であり、その優れた品質によりスペイン料理で高く評価されています。これらは独特の肉質を持つ動物であり、どの部位でもそれが明らかになる特別な遺伝子構造を持っています。脂肪が肉によく入るため、この豚の肉は柔らかく、非常にジューシーです。穀物主体飼料(小麦、トウモロコシ、大麦など)で育てられたイベリコ豚は、最高の動物福祉基準に基づいて飼育されています。設備が整いかつ低い飼育密度で、大部分はわら床で飼育されています。 ヴァル社では、交雑50%と75%、および 100% のイベリコ豚を飼育しています。

森放牧どんぐり肥育のイベリコ豚

  スペイン美食の頂点にある宝石、とろけるようなジューシーな肉です。放牧期には、どんぐりを食べたイベリコ豚が牧草地を自由に歩き回り、どんぐりや野生のハーブを食べ、肉に独特で微妙な風味をもたらします。

牧草地を長く移動することで脂肪が肉によく入り、完璧な脂肪交雑になったカット肉が得られます。 さらに、その脂肪には、バージン オリーブ オイルにも含まれる栄養素であるオレイン酸が多く含まれています。100% イベリコ豚は、100% 純粋なイベリコ豚の種豚と原種豚の純粋な遺伝子プールから生まれています。

 

補足:イベリコ豚の定義

英国農業委員会(AHDB)主催の国際養豚クラブで、欧州PICの技術部長、Dr. Isaac Heurtaのスペインの豚生産についての講演がありました。イベリコ豚は全体の10%くらい。さらにイベリコ豚には3つの条件:イベリコ豚品種50%以上、ドングリ給餌、肥育後半を森で育てる。それでイベリコ豚には6タイプあるのがわかります。1)イベリコ50%で普通の飼料 2)イベリコ100%で普通の飼料、3)イベリコ50%でドングリ、4)イベリコ100%でドングリ、5)イベリコ50%で森放牧でドングリ、6)イベリコ100%森放牧でドングリです。

3つの条件を全部クリアしているのは、イベリコ豚と言われるもの中でも5%に過ぎません。。

エピソード:米国にとっての日本豚肉市場

2023年、米国養豚生産者協議会(NPB)は、2024年に米国食肉輸出連合会(USMEF)との国際市場開発へ775万ドルを拠出しました。NPBは豚肉促進活動においてUSMEFへの最大の拠出者です。

2022年には米国産豚肉が日本の総輸入量の30%近くを占めました。米国産豚肉は日本最大のとんかつレストランチェーンである「かつや」への唯一のサプライヤーとなりました。カナダ産から米国産豚肉へ移行したそうです。かつやの米国産豚肉100%への移行により、月間約770トンの豚肉の輸出量が見込まれ、2024年には新たな豚ロース肉のプロモーションを展開する計画だそうです。

トピッグス(Topigs Norsvin)の種雄豚ラインの比較

​​

 サンチェス・オソリオ氏(J. Sánchez-Osorio, Topigs Norsvinの技術部長)は、同社が各市場向けに開発したさまざまな止め雄種豚の系統の特徴について、Pig333の記事で説明しています。

出典:www.pig333.com/articles/topigs-norsvin-boars-catalog-of-lines-and-selection-objectives_20945/

 養豚業界の種雄豚へのニーズは、対象マーケットや各生産システムによって異なります。マーケットは、赤身%に重点を置いたものから、肉質を最大限に重視するもの、そしてほぼ完全に効率性に重点を置いたものまで多岐にわたります。5つのラインでその特徴を示します。

Topigs Norsvin は、バランスのとれた育種選択の方針を維持しています。成長と肥育段階の効率というより伝統的な特性に加えて、その雄豚系統の目標には、丈夫さ、枝肉の品質、肉質などの他の側面を常に重視しています。

 雄豚ラインにおける丈夫さ

 肥育豚の遺伝的価値の 50% は、止め雄豚に依存します。肥育豚は、あらゆる種類の環境、健康、管理上の課題に直面しながら、あらゆる環境で遺伝的潜在能力を発揮する必要があります。このため、丈夫さはトピッグスの選抜プログラムの重要な要素です。

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ライン別の特徴は以下です。

 TNセレクト: バランスのとれたピエトレン系、肥育豚の成長速度、効率、枝肉歩留まり、丈夫さのバランスをよりとった選択を目指し、ハロセン遺伝子を 0% のピエトレイン。

ターゲット市場: 中重量および高重量 (生体重 110 kg 以上) で優れた枝肉歩留まりを持つ赤身肉を低コストで生産したい生産者。雄臭の発生率を減らすために長年選ばれており、子豚の活力に優れている。

 TNテンポ: 丈夫さに重点を置く、ヨークシャーを基礎とする合成系統

ターゲット市場: 重体重でも高い赤身成長能力を持つ、活発で丈夫な子豚の生産。このラインは当初、従来の健康条件で主に選抜され、生産効率を維持しながら、健康上の課題に対する独自の自然な抵抗力を持つ雄豚を生み出し、病気に対する耐性を高めた。

  

 TN REX: 赤身の肉と優れた強健性、TNセレクト と TNテンポの合成系統の特徴を組み合わせたハイブリッド種雄豚

ターゲット市場: 脂肪が少なく、特に丈夫で、どんな状況でも成長を維持できる豚を求める生産者。丈夫さと飼料食い込みに優れているため、あらゆる環境に適応し、良好な肥育成績と飼料要求率を維持できるため、特に暑い地域では理想的な選択肢となる。

 TN デュロック: バランスのとれたデュロック、フルバリュー豚の生産割合が高いライン。肥育成績と屠体成績が優れているのが特徴。

ターゲット市場: 低コストでの効率的な生産と、塩漬けハム生産の特定のニーズに適応した高品質の肉のバランスを求める生産者。

 イベリ・デュロック: 最高の肉質、高品質の肉の生産に重点、イベリコ豚とデュロック豚のミックスで日本市場を期待していると思われる

ターゲット市場: 生体重 125 kg 以上の市場で優れた霜降りと脂肪分を持つ高級製品を求める生産者。

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